当院における臨床研究・治験について

はじめに

神戸アイセンター病院では、重い網膜の病気が原因となり網膜の機能が失われた患者さんの視機能の再生を目指した臨床研究を進めています。
これまでに、神戸アイセンター病院の前身である神戸市立医療センター中央市民病院眼科と先端医療センター病院眼科は理化学研究所網膜再生医療研究開発プロジェクトチーム(高橋政代リーダー)と共同で、加齢による網膜色素上皮(RPE:注釈3)細胞の異常が原因で、高齢者の主要な失明原因となる病気のひとつである「滲出型加齢黄斑変性」(注釈1)の患者さんを対象に、新しい治療としてiPS 細胞(注釈2)から作製した網膜色素上皮(RPE)細胞移植の安全性の確認を主な目的として臨床研究を行って参りました。2014年には先端医療センター病院で自家iPS 細胞(患者さんご自身の細胞から作成したiPS 細胞)由来RPE 細胞が1名の患者さんに移植され、2017年には中央市民病院と大阪大学医学部附属病院で同種iPS 細胞(他人の細胞から作成したiPS 細胞)由来RPE細胞が5名の患者さんに移植されました。その結果、治療を受けた患者さんには重大な合併症はなく、他人の細胞を移植することによる免疫拒絶反応に対しても安全性が確認され、患者さんの視力が保たれることが解りました。
これらの結果を受け、現在下記の2つの臨床研究が進められています。

「当院の主な臨床研究」(再生医療等)

1.網膜色素変性に対する同種(ヒト)iPS細胞由来網膜シート移植に関する臨床研究(募集終了)

【研究の背景】
網膜色素変性は、遺伝子変異を原因として網膜の視細胞が失われていく進行性の難病です。国の指定難病の一つであり、罹患者数は4000~8000人に1人とされ、厚生労働省による難病医療受給者証所持者数(2019年度)は23,263人です。成人の視覚障害原因疾患としては緑内障、糖尿病網膜症に次ぐ第3位となっています。
病気の進み方には個人差がありますが、通常、最初に現れる症状は、夜や薄暗い屋内でものが見えにくくなる「夜盲」です。その後、「視野狭窄」が少しずつ進行し、見える範囲が周辺部分から中心に向かい狭くなっていき、完全失明に至ることもある疾患です。
この病気の原因となる遺伝子は多数知られていますが、日本国内では遺伝子検査により、半数程度の患者さんで原因となる遺伝子が判明します。現在の所、確立した治療法はなく、遺伝子治療や薬剤治療、人工網膜等の研究開発が国内外で行われていますが、治療効果が十分であるとは言えません。
そこで、iPS細胞から作製した網膜を移植することにより、視機能を回復させる新しい治療法の開発を目指してこの臨床研究を開始しました。具体的には、iPS細胞から視細胞を多量に含む立体的な網膜組織(網膜シート)を作製し、患者さんの網膜に移植します。動物実験では、移植された視細胞が生着し機能することが確認されており、盲目のマウスが光に反応するようになったことを示唆する結果が得られています(網膜シート移植の概念図を参照)。

【研究計画】
①主な目的
・安全性の評価で、細胞の増殖や免疫拒絶反応などについての評価を行います。また、有効性については、網膜感度、視野などの検査を行い、視機能について評価します。
②移植した細胞
・網膜色素変性は遺伝性の疾患のため、患者さん本人のiPS細胞は使用できないため、他人のiPS細胞を使用し製造した網膜シートを移植しました。
③対象となる患者さん
・20歳以上の男女で、視力0.2未満、視野狭窄が進んだ重度の網膜色素変性と診断されている方
④目標症例数
・2例(募集は終了いたしました)
⑤観察期間
・移植後1年間
⑥実施体制
・実施医療機関(再生医療等提供機関)は神戸市立神戸アイセンター病院(単施設)で、網膜シートの製造は大日本住友製薬株式会社が行いました。
【進捗】
○進行状況
・2020年10月より移植を開始し、2例目の移植が終了しており、移植後1年間の観察期間中です。今後の研究の進捗については、当院からのお知らせをご覧ください。

網膜シート移植の概念図

2.網膜色素上皮(RPE)不全症に対する同種iPS細胞由来RPE細胞移植に関する臨床研究(募集終了)

【研究の背景】
本臨床研究では、これまで対象としていた加齢黄斑変性だけでなく、RPE細胞が変性したり、機能が落ちることで目が見えにくくなる様々な病気が含まれる「網膜色素上皮(RPE)不全症」の患者さんを対象に移植を行い、効果と安全性を調べています。

【研究計画】
①主な目的
・RPE不全症に含まれる病気のうち、どの病気にRPE細胞移植の効果が期待できるかを調べることと、移植の効果を調べるために行う検査方法   について評価します。
②移植する細胞
・今回の研究でも、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)で事前に作製し、十分に細胞の特性と安全性が確認されている同種(ヒト)iPS細胞をRPE細   胞に変化させたものを使用します。そして、その細胞を患者さんの眼に移植します(RPE細胞移植概念図を参照)。
③対象となる患者さん
・20歳以上の男女で、視力0.3以下、または視野検査において視野欠損が認められるRPEに含まれる網膜変性疾患と診断されている方です。ま    た、移植の前に患者さんのHLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原:注釈4)が、移植する細胞のHLAと一致するかを調べる検査を   行いますが、HLAが合わない場合でも、免疫抑制剤等を投与することで、研究に参加していただくことが可能です。
④目標症例数
・50例(募集は終了いたしました)
⑤移植後の観察期間
・4年間
⑥実施体制
・実施医療機関(再生医療等提供機関)は神戸市立神戸アイセンター病院で、理化学研究所で製造したRPE細胞使って、神戸アイセンター病    院・網膜再生細胞加工施設(KEC-fRR:旧FRRM)において、移植する細胞を準備します。なお、本臨床研究では、移植したRPE細胞が広い範   囲で均一に生着しやすくなるように工夫がなされています。
【進捗】
○進行状況
・2021年3月より移植を開始しています。今後の研究の進捗については、当院からのお知らせをご覧ください。

RPE細胞移植の概念図

3.網膜色素上皮(RPE)不全症に対する同種iPS細胞由来RPE細胞凝集紐移植

注釈:
1. 加齢黄斑変性とは:
加齢に伴って発症する網膜の中心部分(黄斑)の変性で、主な原因はRPEの老化(機能低下)によるものと考えられています。加齢黄斑変性のうち、日本人に特に多い滲出型加齢黄斑変性は、RPEの下から異常な血管が生えてきて網膜がダメージを受けるもので、現在の治療法としては、血管ができるのを抑える薬の硝子体内注射(アイリーア®、ルセンティス®など)が行われています。これは初期の症例には有効ですが、症状が進んだ場合には効果は低く、視機能を維持・回復させるためには、網膜を保護するRPEの再建が必要です。

2. iPS細胞とは:
皮膚や血液などの体細胞に、いくつかの因子(遺伝子)を作用させることによって作り出された、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力(多能性)と、ほぼ無限に増殖する能力を持った、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)のことです。2006年に、京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて作製に成功しました。

【RPE細胞の写真】

3. 網膜色素上皮(RPE)細胞とは:
網膜の外側にあり、網膜を保護する役目を持つ細胞です。RPEの機能が低下すると、網膜が弱って視力、視機能が低下します。私たちは、iPS細胞から、生体から得られるものと同等の機能を持つRPEを作り出すことに成功しており、動物実験によりそれが生体内で機能すること、腫瘍化など安全性面で問題がないことを確認しました。

4. HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)とは:
血液中の赤血球にはA型、B型、AB型、O型などの血液型があり、輸血の際には血液型を一致させないといけません。同様に、白血球をはじめとする全身の細胞にはHLA(Human Leucocyte Antigen、ヒト白血球抗原)と言われる型があり、自分の細胞と他人の細胞を見分けるための目印となっています。これが異なるヒトの間で細胞や臓器を移植すると、身体の中でそれらを排除しようとする「免疫拒絶反応」が起こります。
私たちが2回目に行ったiPS細胞由来RPE細胞に関する臨床研究では、京都大学iPS細胞研究所が事前に作製した日本人に最も多いHLA型を拒絶反応が起きにくい組み合わせで持つ人の細胞から作製された同種iPS細胞をRPE細胞に変化させたものを、同じHLA型を持つ患者さんに移植することで、「免疫拒絶反応」を抑えることができました。
移植する前に患者さんのHLAを検査することで、HLAが合わない場合でも、拒絶反応を調べる検査を定期的に行い、一定期間免疫抑制剤を投与することで、安全に移植を進めることが出来ます。

当院で実施中の臨床研究・治験について

臨床研究について

臨床研究とは人を対象として行われる医学研究のことです。病気の予防・診断・治療方法の改善や病気の原因の解明、患者さんの生活の質の向上を目的として行われます。そこでは、長時間かけて発症する病気や、稀にしか見られない病気も対象になりますし、すでに行われている治療の効果やその予後を観察していくこともあります。医療に活用できる確かな情報とするため、患者さんにご協力いただいて行われるのが臨床研究です。

治験について

新しい薬が医療の現場で多くの患者さんに使えるようになるためには、事前に十分な効き目と副作用を確かめる事が必要です。この「薬の候補」の有効性と安全性を確認し、国に薬として認めてもらうための、人を対象とした臨床試験のことを「治験」と呼びます。治験は人を対象としていますので薬機法とGCPのもと厳しく管理され、患者さんの人権や安全を守り、適正に実施されるようになっています。
 現在使用されている薬も、この「治験」に多くの方が協力いただいたことで誕生しました。
治験についての詳細は厚生労働省「治験」ホームページをご参照ください。
(参考)厚生労働省「治験」HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chiken.html

研究に関する公開情報

当院では、診療情報(診療で得られたデータ)を用いて研究を行うことがありますが、その場合は、国が定めた倫理指針に基づき、インフォームド・コンセントを受けて実施しております。またインフォームド・コンセントを受けない場合には、オプトアウトの手続きを取っています。

オプトアウトとは、患者さんへ研究内容を説明し同意を頂く代わりに、情報(研究の概要)を通知又は公開し、研究が実施又は継続されることについて患者さんが拒否できる機会を保障する手法のことを言います。

当院でオプトアウトを行っている臨床研究

管理番号 研究課題名 部署 当院責任者 初回承認日 情報公開文書
O23004 日本網膜硝子体学会(Japanese Retina and Vitreous Society)における黄斑前膜レジストリ研究 診療部 栗本康夫 2023年10月
研E23003 網膜変性・網膜機能低下をきたす疾患の分子病態解析 診療部 平見恭彦 2023年9月
O23001 iPS細胞由来網膜細胞ストックの作製 研究センター 万代道子 2023年8月
O22013 日本網膜色素変性症レジストリプロジェクト 診療部 平見恭彦 2023年1月
研E22005 視力検査時における視力障害相当者のピックアップの取り組みに関する研究 視能訓練士室 黄丹 2023年1月
基E22-02 臨床用網膜遺伝子改変iPS細胞株の樹立 研究センター 万代道子 2022年7月
研E22002 神戸市立神戸アイセンター病院における遺伝カウンセリング外来の後方視的研究 診療部 吉田晶子 2022年6月
基 E20-01 iPS細胞由来網膜細胞移植による網膜変性疾患治療法の開発のための分化細胞の解析と移植剤型、手法、手技に関わる検討 研究センター 万代道子 2022年3月
研E22001 斜視・弱視患者の治療経過観察による治療法の検討 診療部 栗本康夫 2022年3月
研E21005 オミデネパグ イソプロピル点眼液の薬剤師による適正使用推進のための後方視的調査 薬剤部 室井延之 2021年9月
研E21003 網膜変性疾患症例の視機能の自然経過観察 診療部 栗本康夫 2021年8月
研E20012 感染性ぶどう膜炎病原体核酸同時検出キットに関する多施設共同臨床性能試験 診療部 伊藤晋一郎 2021年4月
研E20001 視神経炎における画像解析と臨床症状・治療経過との関連に関する検討 診療部 栗本康夫 2020年4月
研E19002 網膜変性疾患における網羅的遺伝子診断に関する研究 診療部 栗本康夫 2019年8月
研E18011 眼内レンズ挿入眼の視機能評価の後ろ向き研究 診療部 栗本康夫 2019年1月
研E18008 網膜硝子体疾患の治療前因子と治療効果の後ろ向き調査 診療部 栗本康夫 2018年11月
研E17007 緑内障の治療前因子と治療効果の後ろ向き研究 診療部 栗本康夫 2017年12月
研E17001 眼疾患における眼底構造の画像解析 診療部 栗本康夫 2017年12月

当院で実施している治験

No 課題名・試験名 備考
1 新生血管を伴う加齢黄斑変性患者を対象にALT-L9の有効性及び安全性をアイリーア®と 比較する無作為化、第3相、二重盲検、並行群間比較、多施設共同試験 サイネオス・ヘルス・クルニカル株式会社(治験国内管理人)
2 AVT06の有効性及び安全性をEU-アイリーアと比較する臨床試験(ALVOEYE試験) IQVIAサービシーズ ジャパン株式会社(治験国内管理人)
3 ROH-201点眼液 後期第II相臨床試験

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新規治験申請の流れ

当院では神戸市立医療センター中央市民病院治験審査委員会に審査を依頼しております。 ※治験審査委員会事務局への問い合わせについては、研究センター管理部門( e_kanri[at]kcho.jp)にご連絡ください。治験審査委員会事務局へ直接お問い合わせすることはお控えください。

  • 1. 新規治験相談

    ① 施設選定・事前確認
    研究センター管理部門(e_kanri[at]kcho.jp)へ連絡ください。
    施設選定調査の内容を確認した上で、診療部に相談いたします。
    IRB申請時期の確定、新規申請のご案内一式のご提供など対応いたします。

    ② 治験実施計画等の確認
    管理部門で治験の実施計画および内容を聞き取りさせていただきます。

  • 2. CRCについて

    治験コーディネーター(CRC)による支援が必要である場合、当院には院内CRCが在籍していないため、当院の基準を満たしたSMOに委託しております。 SMOの選定や契約等については、事務部門(e_kenkyujimu[at]kcho.jp)にご連絡ください。

  • 3. 事務局ヒアリング

    神戸市立医療センター中央市民病院治験審査委員会事務局にて、委員会開催月の1日までにヒアリングを実施しております。日程調整が必要ですので、早めにご相談ください。

    必要資料:
    治験実施計画書、治験薬概要書 各8部
    説明用ハンドアウト資料、費用負担に関する資料案 各17部

    ※詳細はこちらをご確認ください。
    http://chuo.kcho.jp/department/clinicalresearch_index/clinical_research_center/business/request

  • 4. 新規申請

    治験審査委員会開催月の1日までに、以下の申請資料を、当院研究センター管理部門へご提出ください。
    ・治験依頼書(様式3) 原本1部
    ・審査資料ファイル 25部

  • 5. 治験審査委員会

    神戸市立医療センター中央市民病院治験審査委員会は、原則毎月第4金曜日に開催いたします。当日は、治験責任医師が出席し、説明いたします。
    なお、必要に応じて、CRCも同席可能となっております。

    ※治験審査委員会の日程はこちらをご確認ください。
    http://chuo.kcho.jp/department/clinicalresearch_index/irb_secretariat/clinical_trial/board

  • 6. 契約締結

    治験審査結果通知書が発行されましたら、契約書を作成し、当院事務局までご提出ください。

  • 7. 治験薬搬入

    治験薬管理責任者、管理補助者と搬入日時および治験薬の受領者を調整してください。

  • 8. スタートアップミーティング

    治験責任(分担)医師、治験依頼者、担当CRC、その他治験協力者で、治験実施前の打ち合わせを行います。日程等の調整は担当CRCにご相談ください。

  • 9. 治験開始

    治験開始後の各種申請について

    ※詳細は中央市民病院治験審査委員会ホームページをご確認ください。
    当院における各種資料提出締め切り:治験審査委員会への提出締め切り1週間前

    直接閲覧について

    治験契約締結後、直接閲覧時に必要となる電子カルテのID申請をしてください。
    以下の書類を作成いただく必要がありますが、書類をメールにてお送りさせていただきますので、事務部門( e_kenkyujimu[at]kcho.jp)までご連絡ください。

    ●医療情報システム利用登録申込書
    ●直接閲覧のための誓約書
    提出先:研究センター事務部門

    治験薬の搬入について

    治験薬の搬入については、薬剤部と事前に相談してください。

    連絡先:
    神戸市立神戸アイセンター病院薬剤部
    TEL 078-381-9876
    E-mail e_di[at]kcho.jp

研究活動における不正防止に向けた取り組み

当院では研究活動の不正行為防止及び公的研究費の不正使用防止等に取り組んでいます。

地方独立行政法人神戸市民病院機構 
公的研究費等の取扱いに関する行動規範
地方独立行政法人神戸市民病院機構 
公的研究費等不正防止に関する基本方針
地方独立行政法人神戸市民病院機構 
公的研究費等の不正防止計画
地方独立行政法人神戸市民病院機構における研究活動上の不正行為の防止及び対応に関する規程

相談・申立の窓口は法人本部のコンプライアンス推進室となっております

地方独立行政法人神戸市民病院機構
法人本部総務課職員係(機構のコンプライアンス推進室を兼ねています。)
所在地:〒650-0047 神戸市中央区港島南町2丁目2番地
神戸市立医療センター中央市民病院 南館3階
電話:078-940-0155
(受付時間:月~金曜日8:45~17:30 ※休日及び祝祭日、年末年始等を除く)
FAX:078-306-2870
Email:compliance[at]kcho.jp

研究センター体制図

組織・役職 氏名
研究センター長 万代 道子
副センター長 前田 亜希子
研究センター顧問 髙橋 政代
部門 主な業務内容
研究部門 研究の実施
支援部門 研究支援
管理部門 倫理申請管理
事務部門 契約事務、研究費管理
その他事務